介護分野の「特定技能」|受け入れ現状・要件・方法・注意点を詳しく解説

介護分野の特定技能外国人の受け入れ要件

2019年4月、日本での人手不足を解消するために14産業分野において「特定技能」という在留資格が設立されました。介護分野もそのひとつ。即戦力の期待できる外国人を受け入れることができるようになりました。

ただし、介護分野の特定技能外国人を受け入れるための要件もあります。それらを揃えていないと受け入れることができません。新設されたばかりで受け入れの経験や知識がない人も多いでしょう。しかし、これらを知ることが介護分野で即戦力となる外国人が雇用でき、人員不足を解決する鍵になるかもしれません。

この記事では、介護分野の特定技能外国人を受け入れるための、企業側と外国人側の要件と受け入れにあたっての注意点を詳しく解説します。

介護分野の「特定技能」

「特定技能」とは、人手不足が厳しい産業分野において、相当程度の知識・技能を有する外国人労働者を受け入れるために設立された在留資格です。14産業分野において「特定技能」が導入され、介護分野もそのひとつです。

「特定技能」は1号と2号の2種類ありますが、介護分野においては「特定技能1号」の1種類のみとなります。

設立背景:介護分野の深刻人手不足

「特定技能」は人手不足を解消を目的として設立されました。人手不足が深刻と言われている14分野で特定技能外国人の就労が認められています。

介護分野もそのひとつとなっており、人手の状況は介護分野の求人倍率で見ることができます。2017年の有効求人倍率は、3.64倍でした。この結果は、求職者1人あたり約4件(3.64件)の求人があるということです

全国平均の1.54倍より高くなっているため、介護分野における人手不足が深刻と言えます。そのため、介護分野における「特定技能」が設立されました。

介護分野の特定技能外国人の受け入れ現状

2019年に、介護分野において2024年までに60,000人の特定技能外国人を受け入れるという目標が掲げられました。では、その現状はいかがでしょうか。ここでは2020年末時点の実際受け入れ数字を見ていきましょう。

新型コロナウィルス感染症による入国制限の影響もあり、2020年末時点では、残念ながら介護分野における特定技能外国人は939人にとどまっており、目標と大きく乖離している現状です

ただ、2020年9~12月で見ていくとおよそ2倍の人数が増えているので、今後の増加が期待できるでしょう。

介護分野の特定技能外国人の受け入れ要件

特定技能外国人を受け入れるには、事業所の種類、雇用形態、報酬、受け入れ人数と期間などいくつかの要件を満たす必要があります。これらの要件に満たさないと特定技能外国人を受け入れることができません。

事業所の種類:訪問介護サービスはNG

特別養護老人ホームや介護老人保健施設、特定介護福祉施設、グループホーム、通所介護事業所(デイサービス)などの介護施設が、特定技能外国人を受け入れることができます。

ただし、訪問系の介護サービスにおいて特定技能外国人の受け入れは不可です。また、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅などの介護サービスを提供しない施設においても特定技能が適用しません。

雇用形態:直接雇用のみ

形態は、直接雇用のみとなり派遣社員として雇用することは禁止されています。

また、フルタイムでの雇用が必要です。短期勤務やアルバイトとして特定技能外国人を雇用できないので、注意してください。

報酬:日本人の同等以上

報酬は、同じ業務に従事する日本人の社員と同等以上を支払わないといけません。研修期間やほかの福利厚生も同様です。

業務内容:身体介護と支援業務がメイン

特定技能外国人が従事できる業務は次の2つです。

  • 身体介護業務:利用者の心身の状況に応じた入浴、食事、排せつの介助
  • 支援業務:レクリエーションの実施や機能訓練の補助など

また、上記の業務に付随する業務に従事することも可能です。ただし、付随する業務を主な業務として働くのは禁止されています。

受け入れ人数の上限と期間

1つの事業所において受け入れられる特定技能外国人の数は、日本人の常勤介護職員の総数を超えてはいけません

また、受け入れ期間の上限は5年と決まっています。その期間が満了すると、外国人が帰国しないといけません。

介護分野の特定技能外国人の受け入れの注意点

介護分野の特定技能外国人を受け入れるために、外国人への就労・生活支援と特定技能協議会の加入が必要となってきます。それぞれの内容を認識しておきましょう。

特定技能外国人への就労・生活支援が必要

介護分野の特定技能外国人がその在留資格に基づく活動を安定的かつ円滑に行うことができるようにするため、受け入れ企業が外国人への職業生活上、日常生活上または社会生活上の支援が求められています。合計下記の10支援項目あります。

  1. 事前ガイダンス
  2. 出入国する際の送迎
  3. 住居確保・生活に必要な契約支援
  4. 生活オリエンテーションの実施
  5. 公的手続等への同行
  6. 日本語学習機会の提供
  7. 相談・苦情への対応
  8. 日本人との交流促進
  9. 転職支援
  10. 定期的な面談の実施、行政機関への通報

特定技能外国人を実際に受け入れる前に、それぞれの支援項目に対して計画を立てて出入国在留管理庁に提出する必要があります。また、支援計画の実施も求められます。

くわしくはこちらの記事:「特定技能」の支援計画とは?必須10項目や実施方法を徹底解説

介護分野における特定技能協議会の加入

介護分野の特定技能外国人を受け入れる企業は、その分野における特定技能協議会に加入しないといけません。特定技能協議会の目的は、各構成員の連携緊密化を図り、特定技能外国人が適正に受け入れられるような体制作りとしています。

外国人の受け入れ企業のほかに、法務省や警視庁などの省庁や介護分野に関連する団体と学者も協議会の構成員となります。

特定技能外国人を受け入れる企業は、その外国人が入国後4ヶ月以内に協議会事務局のオンラインシステムで申請を提出しないといけません。また、次の書類をコピーしてアップロードする必要があります。

  • 特定技能の雇用条件書
  • 特定技能外国人の支援計画書
  • 事業所の概要書等
  • 日本語能力水準を証明する書類:介護日本語評価試験・日本語能力試験等の合格証明書、介護福祉士国家試験結果通知書、技能実習評価試験の合格証明書など
  • 技能水準を証明する書類:介護技能評価試験の合格証明書、介護福祉士国家試験結果通知書、技能実習評価試験の合格証明書など
  • 在留カード

介護分野の「特定技能」の取得要件

介護分野の特定技能を申請する要件

介護分野の「特定技能」に申請するには、外国人が技能水準と日本語水準の条件を満たさないといけません。次の試験に合格すればそれらが満たされていると判断されます。

  • 介護技能評価試験
  • 介護日本語評価試験
  • 日本語能力試験N4レベル、または国際交流基金日本語基礎テストA2レベル

介護技能評価試験

介護技能評価試験とは、厚生労働省が主導する介護分野における特定技能外国人の技能水準を測定する試験です。試験問題は、厚生労働省が選定した業界で代表的な団体が作成するので、試験の信頼性は高いと言えます。

試験の問題は4つのカテゴリーから出されます。技能水準を全面的に測定するため、学科試験と実技試験があります。

  1. 介護の基本
    介護における人間の尊厳と自立、介護職の役割職業倫理、介護サービス、介護における安全の確保とリスクマネジメントの4つの項目がテストされる
  2. こころとからだのしくみ
    からだのしくみの理解と介護を必要とする人の理解に対して評価する
  3. コミュニケーション技術
    コミュニケーションの基本と、利用者やチームメンバーとのコミュニケーションについて出題される
  4. 生活支援技術
    移動の介護、食事の介護、排せつの介護、みじたくの介護、入浴・清潔保持の介護、家事の介護の6項目がテストの対象となる

介護技能評価試験の実施概要

介護技能評価試験は日本国内だけでなく海外にも実施されています。2021年7月時点では、カンボジア、インドネシア、モンゴル、ミャンマー、ネパール、フィリピン、タイなどの国で開催された実績があります。

介護技能評価試験の海外開催スケジュール(2021年7月)
介護技能評価試験の日本国内開催スケジュール(2021年7月)

受験の申し込み方法は受験国によって異なります。詳細は下記のWEBサイトにご参考ください。

介護技能評価試験の申し込みサイト

日本語能力試験・国際交流基金日本語基礎テスト

一定以上の日本語能力水準があると認められるために、「国際交流基金日本語基礎テスト」のA2、もしくは「日本語能力試験」のN4以上を取得する必要があります。

それらのテストに合格すると、外国人が基本的な日本語を理解することができ、自分の背景や身の回りの状況など、簡単な言葉で説明することができるとされます。

介護日本語評価試験

介護現場で使われる用語を理解し、円滑に業務を進めるため、介護日本語評価試験も合格しないといけません。

介護日本語評価試験は厚生労働省が主導する試験です。試験方針や問題の検討・反省・修正は定期的に行われます。介護のことば、介護の会話・声かけ、介護の文書の3つのカテゴリーから出題されます。

試験が免除される場合もある

試験に合格することのほかにも、それまでの経歴や実務経験などで介護分野において相当な知識・技能を有すると認定されることがあります。そのため、技能実習2号の修了者、EPA介護福祉士候補者、介護福祉士養成課程を修了者は、試験の免除が認められます。

「技能実習2号」を修了した者

介護分野における「技能実習2号」を修了した外国人は、「特定技能」に移行することができます。「技能実習2号」を修了するには、技能実習生が日本の介護分野において3年以上に勤務する必要があるためです。

「技能実習2号」修了者を受け入れる場合、技能実習修了証の確認と提出が必要となります。選考の際に外国人に提示してもらいましょう。

EPA介護福祉士候補者

EPA介護福祉士候補者とは、介護福祉士養成施設の実習施設と同等の体制が整備されている介護施設で日本の介護福祉士国家資格の取得を目指す外国人です。

厚生労働省が指定した養成施設で4年の間の研修・勤務をして、かつ介護福祉士国家試験に5割以上得点すれば、一定の専門性があると認定されるため「特定技能」に切り替えることが認められます。

この場合、外国人の介護福祉士国家試験結果通知書の提出が必要です。

介護福祉士養成課程を修了した者

介護福祉士養成課程は、介護福祉の専門職として、介護職のグループの中で中核的な役割を果たし、介護ニーズの多様化等に対応できる介護福祉士の養成を図るものです。

医療福祉専門学校や大学においてその課程を修了すると介護分野において、一定の専門性・技能があると認められます。修了の証明として、学校から卒業証明書を提示してもらう必要があります。

まとめ

「特定技能」の在留資格設立により、介護分野における相当程度な知識・技能を有する外国人労働者の受け入れができるようになりました。

即戦力となる特定技能外国人を受け入れるため、企業が6つの要件に満たす必要があります。

  1. 事業所の種類:訪問介護サービス以外の介護施設
  2. 雇用形態:直接雇用である
  3. 報酬:日本人の同等以上
  4. 業務内容:身体介護と支援業務がメイン
  5. 受け入れ人数は日本人の常勤介護職員の総数以下
  6. 受け入れ期間は最長5年まで

また、受け入れにあたって企業が特定技能外国人に向けて支援計画を策定・実施しないといけません。支援項目合計10項目あるので、どこから始めれば良いかわからない企業もいるでしょう。その場合、登録支援機関や専門コンサルタントの意見を聞きながら進めたほうが安心できるでしょう。