
2019年4月に「特定技能」という在留資格が新たに創設され、素形材産業で雇用できる外国人材が増えてきました。
特定技能外国人は、技能水準と日本語能力水準を満たす必要があるので、即戦力が期待できるでしょう。ただし、雇用にあたる業務内容や雇用期間に関する注意点もあるので確認が必要です。
素形材産業人材の状況
まず、求人倍率を見てみましょう。求人倍率とは、求職者1人あたりに何件の求人があるかを示すもので、高ければ高いほど人材確保が難しくなります。
2017年の素形材産業における有効求人倍率は、鍛造工が4.32倍、鋳物製造工が3.82倍となりました。全国平均の1.54倍より非常に高くなっています。素形材産業における人手不足は深刻化しているといえるでしょう。
また、高齢化も素形材産業の課題の1つです。2012年は、素形材産業における60歳以上の労働者は25%でしたが、2017年は27%に上昇しています。
素形材産業の外国人材受け入れの必要性
先述の通り、 素形材産業の人手不足は深刻となっています。そこで、 素形材産業について一定の専門性・技能を有する即戦力の外国人の受け入れを促進するために「特定技能1号」が設立されました。
素形材産業の特定技能を申請するには
「特定技能」は、それぞれの分野で即戦力が期待できる外国人材を受け入れるために設立されました。つまり、素形材産業に関して基本的な知識や技能を有するのが求められています。また、コミュニケーションや仕事を円滑に進めるための日本語能力も必要とします。
ですので、外国人が素形材産業の「特定技能1号」を申請するには、技能水準と日本語能力水準の両方を満たすことが条件です。
技能水準
「特定技能1号」を申請する外国人が、素形材産業において一定の知識・技能が持っているのかを測定するため、2つの基準が設けられています。それぞれみていきましょう。
1.「特定技能評価試験」の合格
素形材産業の特定技能評価試験は、経済産業省が主導する試験となります。試験問題は、経済産業省が選定した団体が作成するので、試験の信頼性は高いと言えるでしょう。
また、素形材産業は様々な職種があります。それぞれの業務内容により必要となるスキルも違うので、評価試験も職種ごとに分かれています。
素形材産業の特定技能評価試験は13職種あります。試験内容はそれぞれ異なりますが、すべての職種に学科試験と実技試験の両方を設けています。
項番 | 職種 | 試験名 | 合格したあとに従事できる業務内容 |
---|---|---|---|
1 | 鋳造 | 製造分野特定技能1号評価試験(鋳造) | 鋳造(指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、溶かした金属を型に流し込み製品を製造する作業に従事) |
2 | 鍛造 | 製造分野特定技能1号評価試験(鍛造) | 鍛造(指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、金属を打撃・加圧することで強度を高めることや、目的の形状にする作業に従事) |
3 | ダイカスト | 製造分野特定技能1号評価試験(ダイカスト) | ダイカスト(指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、溶融金属を金型に圧入して高い精度の鋳物を短時間で大量に生産する作業に従事) |
4 | 機械加工 | 製造分野特定技能1号評価試験(機械加工) | 機械加工(指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、旋盤、フライス盤、ボール盤等の各種工作機械や切削工具を用いて金属材料等を加工する作業に従事) |
5 | 金属プレス加工 | 製造分野特定技能1号評価試験(金属プレス加工) | 金属プレス加工(指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、金型を用いて金属材料にプレス機械で荷重を加えて、曲げ、成形、絞り等を行い成形する作業に従事) |
6 | 工場板金 | 製造分野特定技能1号評価試験(工場板金) | 工場板金(指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、各種工業製品に使われる金属薄板の加工・組立てを行う作業に従事) |
7 | めっき | 製造分野特定技能1号評価試験(めっき) | めっき(指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、腐食防止等のため金属等の材料表面に薄い金属を被覆する作業に従事) |
8 | アルミニウム陽極酸化処理 | 製造分野特定技能1号評価試験(アルミニウム陽極酸化処理) | アルミニウム陽極酸化処理(指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、アルミニウムの表面を酸化させ、酸化アルミニウムの皮膜を生成させる作業に従事) |
9 | 仕上げ | 製造分野特定技能1号評価試験(仕上げ) | 仕上げ(指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、手工具や工作機械により部品を加工・調整し、精度を高め、部品の仕上げ及び組立てを行う作業に従事) |
10 | 機械検査 | 製造分野特定技能1号評価試験(機械検査) | 機械検査(指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、各種測定機器等を用いて機械部品の検査を行う作業に従事) |
11 | 機械保全 | 製造分野特定技能1号評価試験(機械保全) | 機械保全(指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、工場の設備機械の故障や劣化を予防し、機械の正常な運転を維持し保全する作業に従事) |
12 | 塗装 | 製造分野特定技能1号評価試験(塗装) | 塗装(指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、塗料を用いて被塗装物を塗膜で覆う作業に従事) |
13 | 溶接 | 製造分野特定技能1号評価試験(溶接) | 溶接(指導者の指示を理解し、又は、自らの判断により、熱又は圧力若しくはその両者を部材に加え接合する作業に従事) |
2.「技能実習2号」の修了
素形材産業において「特定技能」を導入している13職種に関連する「技能実習2号」を修了すると、「特定技能」の申請が可能となります。
「技能実習2号」を修了するには、日本で3年以上の素形材産業の実務経験が必要となります。
以下に、移行できる「技能実習2号」と「特定技能」との関連性をまとめました。
項番 | 職種 | 技能実習2号移行対象職種 | 技能の根幹となる部分の関連性 | |
---|---|---|---|---|
職種 | 作業 | |||
1 | 鋳造 | 鋳造 | 1.鋳鉄鋳物鋳造 2.非鉄金属鋳物鋳造 | 溶かした金属を型に流し込み製品を製造する技能及び安全衛生等の点で関連性が認められる。 |
2 | 鍛造 | 鍛造 | 1.ハンマ型鍛造 2.プレス型鍛造 | 金属を打撃・加圧することで強度を高めることや、目的の形状にする技能及び安全衛生等の点で関連性が認められる。 |
3 | ダイカスト | ダイカスト | 1.ホットチャンバダイカスト 2.コールドチャンバダイカスト | 溶融金属を金型に圧入して高い精度の鋳物を短時間で大量に生産する技能及び安全衛生等の点で関連性が認められる。 |
4 | 機械加工 | 機械加工 | 1.普通旋盤 2.フライス盤 3.数値制御旋盤 4.マシニングセンタ | 旋盤、フライス盤、ボール盤等の各種工作機械や切削工具を用いて金属材料等を加工する技能及び安全衛生等の点で関連性が認められる。 |
5 | 金属プレス加工 | 金属プレス加工 | 金属プレス | 金型を用いて金属材料にプレス機械で荷重を加えて、曲げ、成形、絞り等を行い成形する技能及び安全衛生等の点で関連性が認められる。 |
6 | 工場板金 | 工場板金 | 機械板金 | 板金加工とは、薄い平らな金属を曲げや打出しで加工することであり、工場板金は主に各種工業製品に使われる金属薄板の加工・組立ての技能及び安全衛生等の点で関連性が認められる。 |
7 | めっき | めっき | 1.電気めっき 2.溶融亜鉛めっき | 腐食防止等のため金属等の材料表面に薄い金属を被覆する技能及び安全衛生等の点で関連性が認められる。 |
8 | アルミニウム陽極酸化処理 | アルミニウム陽極酸化処理 | 陽極酸化処理 | 「陽極酸化処理」とは、アルミニウム、チタン等で作製された対象となる製品を陽極(プラス極)として、主に強酸性や強アルカリ性の電解液中で電気分解により製品表面を酸化させること。その代表例として、アルミニウム陽極酸化処理があり、アルミニウムの表面を酸化させ、酸化アルミニウムの皮膜を生成させることであり、その技能及び安全衛生等の点で関連性が認められる。 |
9 | 仕上げ | 仕上げ | 1.治工具仕上げ 2.金型仕上げ 3.機械組立仕上げ | 手工具や工作機械により部品を加工・調整し、精度を高め、部品の仕上げ及び組立てを行う技能及び安全衛生等の点で関連性が認められる。 |
10 | 機械検査 | 機械検査 | 機械検査 | 各種測定機器等を用いて機械部品の検査を行う技能及び安全衛生等の点で関連性が認められる。 |
11 | 機械保全 | 機械保全 | 機械系保全 | 工場の設備機械の故障や劣化を予防し、機械の正常な運転を維持し保全する技能及び安全衛生等の点で関連性が認められる。 |
12 | 塗装 | 塗装 | 1.建築塗装 2.金属塗装 3.鋼橋塗装 4.噴霧塗装 | 塗料を用いて被塗装物を塗膜で覆う技能及び安全衛生等の点で関連性が認められる。 |
13 | 溶接 | 溶接 | 1.手溶接 2.半自動溶接 | 熱又は圧力若しくはその両者を加え部材を接合する技能及び安全衛生等の点で関連性が認められる。 |
日本語能力水準
国際交流基金日本語基礎テストのA2レベル、もしくは日本語能力試験のN4以上に合格する必要があります。
これらに合格すると、外国人が基本的な日本語を理解することができると認定されます。
素形材産業での特定技能外国人雇用の注意点
外食業における特定技能外国人を受け入れる際に注意すべき点があります。例えば、従事できる業務内容や、受け入れる人数と期間が変わってきます。必ず確認をしましょう。
1号特定技能外国人を雇用できる
素形材産業分野の1号特定技能外国人を雇用できる事業者は、以下の産業のうちいずれかを営んでいる必要があります。
- 鋳型製造業(中子を含む)
- 鉄素形材製造業
- 非鉄金属素形材製造業
- 作業工具製造業
- 配管工事用附属品製造業(バルブ、コックを除く)
- 金属素形材製品製造業
- 金属熱処理業
- 工業窯炉製造業
- 弁・同附属品製造業
- 鋳造装置製造業
- 金属用金型・同部分品・附属品製造業
- 非金属用金型・同部分品・附属品製造業
- その他の産業用電気機械器具製造業(車両用、船舶用を含む)
- 工業用模型製造業
素形材産業の「特定技能1号」の業務内容
1号特定技能外国人は、合格した特定技能評価試験、または修了した特定技能2号により確認された技能が必要となる業務のみに従事できます。
例えば、鋳造の評価試験を合格した特定技能外国人は、鋳造のみに従事できるので、もし機械検査の業務を行うと不法就労となります。
くわしくはこちらの記事:不法就労の外国人を雇ってしまったら!?外国人雇用のリスクと回避方法
特定技能外国人の受け入れの期間は最長5年
素形材産業分野の特定技能外国人の受け入れの期間は最長5年となっています。5年以上の雇用は原則的に不可となっています。また、技能実習2号の修了者を雇用する場合はその期間も5年に含まれます。最長2年の勤務となりますので、気を付けてください。
なお、特定技能外国人の受け入れが停止になる可能性があります。2019年から2024年の間で、 素形材産業分野における特定技能外国人の受け入れの人数上限は、21,500人と決められています。この上限を超えることが見込まれる場合、国が特定技能外国人の受け入れを止めることができます。
派遣での雇用は禁止
素形材産業における1号特定技能外国人の受け入れは、直接雇用のみとなっています。素形材産業において特定技能は中長期雇用を通じて人材の確保を図るために導入された制度なので、派遣や短期雇用は認められません。
まとめ
素形材産業における人手不足のが深刻になっています。即戦力が期待できる外国人を雇用するため、2019年4月より「特定技能」という在留資格が新設されました。特定技能外国人は日本で3年の実務経験がある人と同じ程度の知識・技能を有すると認定されています。